【みらくりえーしょん】かつて強豪だったとあるスクールアイドルの話。

「あっ、待って──。」

 


伸ばしたその手は、誰からもとられることなく力なく落ち──目の前が真っ暗になった。

 


 


桜の木が緑色に変わり始める季節。

出会いが無限の可能性を生み出す季節。

私の──夢が花開く季節!


「ついに私もスクールアイドルになれるんだ」


幼い頃からずっと憧れていた存在。

限りある青春を精一杯輝こうとする存在。

それが、スクールアイドルだ。


そんなスクールアイドルに──やっと私が!


この日のために受験を頑張って、県内でも有力なスクールアイドルクラブがある闢ョ繝守ゥコ高校に入学したんだ。

チャンスの神様が通り過ぎていかないように。

必ずこの学校で、夢を掴んでみせる!



「じゃあ今から10分休憩してフォーメ練から始めるよー」


「はーい」


「いやぁ〜今日も暑いね」


「ほんとにね。まだ6月になったばっかだっていうのに」


「いやいや、まだ練習始まったばっかりだし。こんなんでバテてちゃやってけないよ?」


「もう、縺ッちゃんってば厳しいんだから〜」

 

そんな他愛もない会話をしながら、今日も練習練習!

うへへ、私があのスクールアイドルだなんて──今でも信じられない!


闢ョ繝守ゥコ高校スクールアイドルクラブは3年生の先輩が2人、そして私たち1年生が5人。

3年生は頼りになる部長と、一見大人しそうだけど内に秘めた情熱は誰よりも大きい(──と睨んでいる!)副部長。

計7人で、学園祭のミニライブに向けて練習を頑張っています!


先輩たちは過去──確か2年前に、あのラブライブ!の地区大会を通過した経験もあって、そんなすごい先輩達と一緒に活動できるのがすごく嬉しいんだ!


私の目標はもちろん、ラブライブ!を優勝すること!


──って、大きく出過ぎだって?

いいのいいの!夢は大きな方が燃えてくるの!


「なんか鼻息荒いけど大丈夫?」


「むっ。そんなことないし」


「じゃあそろそろ再開するよ」


「はーい」


とにかく今は、活動自体がすっごく楽しい!

私たちなら何だってやれそうな、そんな温かい気持ちがどんどん心の奥から湧いてくるんだ!


絶対絶対、このメンバーで夢を叶えてみせるんだ!



私がスクールアイドルになってから半年。

特に何事もなく、順調にスクールアイドルとして活動して、季節は秋になっていた。


秋といえば──ラブライブ!地区予選が始まる。


──はずなんだけど……。


「あの、部長。」


「ん?真剣な顔して、どうかしたか?」


「そろそろラブライブ!地区予選があると思うんですけど……」


私は、違和感を感じていた。

普通、大きな大会が迫ってくると、それに向けて練習も自然と厳しくなってくるものだ。

中学の部活動でもそうだった。


でも──今の私たちは違う。


ラブライブ!地区予選直前だというのに、クラブ内の雰囲気はいつもとまるで変わらなかった。


「そうだね。まぁ、君たちは初めての大きな大会だろうしそこまで気にせず気楽に臨んでくれればいいよ」


「でも──」


でも、部長と副部長にとっては最後のラブライブ!で、過去に活躍した経験もあるのに。


なのに、どうしてこんなに後ろ向きなんだろう?


「さぁ、もうすぐ練習の時間だよ。さぁ行った行った」


有無を言わさず勢いで部長に追い払われてしまった。

もっと言いたいことがあるんだけど──また今度話してみよう。

そんなモヤモヤが残ったまま、練習場所に向かった。


「──いいの?それで」


「……。何が言いたいんだ?」


「あなただってわかってるはず。こんな状態は望んでいないって」


「……さぁ、いいからお前も練習に行くぞ」


「はいはい。──まぁ、そんな部長を支えるのが副部長なんですけどね」


「何か言ったか?」


「いいえ。行きましょうか」



「じゃあ今日の練習はこれで終わりだ。しっかりストレッチして身体ほぐしておけよー」


「あの、部長」


同じ1年の子──中学時代からアイドルをしていたらしい──が真剣な顔で部長の前に立っていた。


「このままでいいんですか?」


「……お前まで……。何が言いたいんだ?」


「もうすぐラブライブ!地区予選ですよね。なのに練習はいつも通りで、クオリティを詰めたり練習時間を増やしたりしていない。こんなやり方で大丈夫なんですか?」


「いいんだよ。このままで。お前ら1年は初めての場だろうしそこまで気負わなくていいよ」


「部長は勝ちたくないんですか?」


「ちょっと、ヒートアップしすぎだって」


「いいんだ。……とにかく、大事なのはスクールアイドルとして活動していることだ。もう遅いから早く帰れよー」


「あの、まだ話は……!」


部長は言葉の続きを待たず、すぐに帰ってしまった。


「……」


重い沈黙が場を支配していた。

やりようのない気持ちが拳に伝わり、爪が手のひらに食い込んでいた。


──と、そのとき。


「あなたたち、ごめんね。」


副部長が、困りつつもなんとか笑顔を浮かべながら口を開いた。


「部長は、前はあんな風じゃなかったの。彼女が変わってしまったのは──ちょうど一年前かしら」


「一年前……」


「一年前。私たちスクールアイドルクラブは、2年生2人、1年生3人の5人で活動していたの」


「2年生は今の部長と副部長で……あれ、1年生3人って?」


「……辞めてしまったわ。スクールアイドルを」


「えっ……?」


当時、1年生が3人いたことは、前調べしたときにわかっていた。

だけど、ある時期から情報が全く出てこなくなり、私が入部したときもいなかった。

前に部長に軽く聞いたことがあるんだけど、うまく話を逸らされてしまって聞けないままだった。


そっか、やっぱり辞めてしまってたんだ。


「そして、部長はその責任は全部自分にあると思っているの。今でも、強くね」


「それが、部長が変わってしまった原因っていうことですか?」


「そうね。簡単に言うと──方向性の違いによるグループ崩壊ってやつかしらね」


「当時、前年にラブライブ!地区大会突破を果たした私たちは、今年も地区大会突破、ひいてはラブライブ!優勝を目指していたの」


「当然、部長は張り切っていて、その分練習も厳しくなっていったわ」


「朝練と昼練を増やし、とにかくクオリティupを目指して詰めて、詰めて、詰めまくった」


「でも、それは部長の独りよがりで、押し付けだった。当時の1年がどんな気持ちで、どう活動したいかなんてまるで気にしていなかったの」


「それで、ある日、もう耐えきれなくなったんでしょうね。1年生全員が同時に辞めていったわ。ラブライブ!地区予選を迎える前に、ね」


「そんな……」


「だから彼女はそれ以来、再びグループが崩壊するのを恐れて自分の気持ちを何も言わなくなり、クオリティを上げるよりもただグループの形を保って活動できていれば、それでいいと思うようになったんだと思う」


でも、そんなのって……。

部長にだってラブライブ!に対する思いはあるはずだもん。

このままじゃよくないよね?うん、絶対よくない!


「私たちはラブライブ!で良い結果を出したいです」


「そのためだったら今より厳しい練習も頑張ってついていきます!」


「私も!」


私以外の1年生も、皆同じ気持ちみたいだった。

ラブライブ!で良い結果を残したい。

そのためには、今の状況を変えなくちゃ。


「……あなたたちの気持ち、よくわかったわ。」


ラブライブ!で勝ちたいのは私も同じよ。部長のことは私に任せて。良い考えがあるの」


そのとき、一瞬だけ、副部長の瞳の奥で炎が揺らめいたような気がした。



「まったくいきなりなんだってんだ?ライブを観に行こうだなんて」


「たまにはいいじゃない。昔はよく行ってたんだし」


「……まぁな」


昔はよくこいつと一緒に色んなスクールアイドルのライブを観に行って研究してたっけ。

今は──そんなの必要ないんだけどな。


「ほら、そろそろ着くわよ」


会場が見えてくると、まだ始まっていないのに会場全体が異様な熱気に包まれていた。


はは、これが今勢いのあるスクールアイドルってやつか。とても敵わないな。

同じ高校生なのにどうしてこんなに差が──いや、今はどうだっていいか。


「キャーーーーーーーーーー!」


空気が揺れていると錯覚するほどの大歓声を浴びながら、その3人はステージ上に現れた。


「ハロめぐー!みんな盛り上がってるかなー?」


「会場の端から端までぜーんぶ見えてるぜー!」


「今日もみんなで思いっきり楽しんでいこうね!」


「それでは聴いてください。ノンフィクションヒーローショー!──。」



ライブも佳境に差し掛かっていた。

天性のアイドルの才を持っていると一目でわかる美少女。

ファン1人1人への配慮が尋常じゃない美少女。

そんな2人に負けじと精一杯パフォーマンスして、何故か目を惹かれる美少女。


たしかにすごいライブだけど──なんで今これを観に来たんだ?


「なぁ──」


「ほら、もうすぐくるよ」


「?それってどういう──」


「みんな、今日もサイッコーに楽しかったねー!」


「名残惜しいけど、そろそろ終わりの時間だね」


「それでは本日最後の曲です!最後まで楽しんでいってください!」


「みらくりえーしょん!」

 

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気がつけば、結露したガラスのように視界がぼやけていた。

気がつけば、両手を握りしめていた。


「私が今日伝えたかったこと、伝わったかな?」


「……」


「今こそあの子達とちゃんと向かい合うときなんじゃないの?」


「…………」


「いつまでもぶつかるのを恐れちゃダメよ」


「……。そんなこと言ったって、また1年前のようにグループが崩壊しちまったらどうするんだよ」


「何事も起きないように、穏便に進めるのが1番なんだよ……」


「それは違うわ」


「……え?」


「あなたは大きな勘違いをしている」


「……」


「あのとき、バラバラになってしまったのは、あなたが自分の気持ちを前に出したからじゃない」


「1年生と向き合うことを放棄したからよ」


「あなたはクオリティを上げたいと思うばかり、1年生がどんな気持ちなのか知ろうとせず自分の思うがままに進めた」


「あなたがクオリティを上げたいと思ってそれを発信するのは何も間違っていない。でも、双方向でコミュニケーションするべきだったのよ」


「1年生たちにも1年生なりの考えや信念があったはず。それは、あなたの考えとは違うかもしれない。でも、ちゃんとお互いにそれをぶつけ合って、その上でどうするか決めていればあんなことにならなかったんじゃないの?」


「……………………」


「……なんだよ、今更1年前の説教をしに連れてきたってのかよ」


「違うわ。同じ過ちを繰り返さないためよ」


「今年入ってきてくれた1年生たちも、彼女らなりの強い信念を持っている」


「あなたはまた向き合うことを放棄して、勝手に進めようとしているわ。でもそれは間違っている」


「今一度私たち全員が思いをぶつけあって、その上でどうするか決めるべきだと思う。たとえ、みんなの思いがバラバラでも構わない。それをぶつけ合うことで新しい可能性が生まれるんじゃないの?」


「でも……」


「何より1年生たちがそれを望んでいるのよ!いい?覚悟を決めるの!」


「…………」


「……なんで今日このライブに連れてこられたか、わかった気がする」


「…………」


「次の練習のとき、1年生とちゃんと向き合うよ。あいつらがどんな気持ちで何をしたいと思っているか。しっかりと向き合う」


言葉にするうちに、心がどんどん軽くなっていく感じがした。


怖くないかと言われたら嘘になるけど──でも、もう逃げない。


新たな可能性ってやつを、絶対に見つけてやる──。



「お疲れ様!いやぁー今日も最高に可愛いめぐちゃんにみんなメロメロで困っちゃったな♡」


「ホントですよぉ〜めぐちゃんせんぱいが天使すぎてアタシまで釘付けになってました〜」


「それにしても、今日もライブ上手くいってよかったね!特に〆のみらくりえーしょんは反応よかったくね?」


「アタシもそう思います!みんな笑顔で──あ、そういえば中にはすごく真剣な顔で観てくれてた子もいたんですよね。ちょっとビックリしちゃいました〜」


「まぁ刺さる人にはとことん刺さる曲だからね。──私には何となくその子の気持ちがわかるな」


「ルリもその子のことが気になってちょっと観てたんだけど、帰るときはすっごく良い顔してたからバッチグー!とルリ思う、ゆえにルリあり!」


「ま、じゃあ大成功ってことで!またファンの子の背中を押してしまったって帰って梢たちに自慢しよ〜っと。ほら、そうと決まったらさっさと帰るよ!」


「あ、ちょっと待ってください〜!」


「……行っちゃった。まったく暴走機関車かっての。ごめんねひめっち」


「いいんです。これが私の好きなみらぱなので!じゃあ、私たちも帰りましょうか〜」


「そだね。──あの子、これからうまくできるといいな」


「え、何か言いました?」


「いやなんでも!さ、帰ろっか!」

 


おわり